◆自由人T氏のありえない決断 その2

ある日、奇しくも創業メンバー四人が、T氏邸に招かれた。
一行の手には、新築祝のDVDデッキと子供たちへの31アイスクリーム全31種類。
インターホンを押すと子供たちの元気な声。リビングに入り、早速お祝いを渡す。
DVDデッキとわかるや否や子供たちは歓声を上げた。しかも大歓声。
「DVD♪DVD♪DVD♪」と大喜びの子供たちに、パパT氏は「そんなに欲しかったんや…」とポツリ。
自分がDVDを見ないT氏は、家族の要望を一切無視してきたのだった。

奥様の用意してくださった食べきれないほどの量のお料理と、おいしいお酒で、時が経った。
そして、DVDデッキとテレビを繋いで試写。
すると画面にはT氏 が…。奥様と子供たちへのメッセージが流れ始めた、慣れない奥様は照れくさそうにされていた。
映像が終了するとT氏から奥様へ花束が。数日前に誕生日だった奥様へ心を込めて贈られた。
その後、奥様は独りで映像を再生してご覧になっていたと…。

数日後には、第2班が招かれ、逆に子供たちからT氏へ「素敵なお家をありがとう」とメッセージVTRが流れた。
何とも幸せなファミリーだ。

他にもこんなエピソードがある。
宅地開発グループは、T氏への新築祝にドライヤーをプレゼントしたそうだ。
えっ?新築祝にドライヤー?実はT氏家のドライヤーは二十年もので、奥様が買い替えたくてしょうがなかった。
しかもこのドライヤー、T氏が学生時代に住み込みでスキー場のペンションでアルパイトをしていた時、風呂場で拾った物だとか…。(ドライヤーが落ちていたのかどうかは定かではないが。)

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仕事人T氏の新人時代

もともと、いい意味では人に流されない、悪く言えば我の強い性格で、今まで社内や業者様相手にも正論をガンガン言ってきた。この宅地開発グループに配属された当初、生意気にチームのことを「ぬるい」と言うことさえあった。配属されて1年経った頃、新エリア開拓のために、上司やチームのメンバーと離れて一人で仕事をすることになった。不安はあったがワクワクの方が大きく、興奮が勝った状態でスタートしたが、1ヶ月ほどで現実を思い知らされることになった。会社の知名度や他社との関係性、周りにすぐに相談できる人がいる環境・・・今までは当たり前にあったものが一つもなく、上司不在の中で本当に小さな部分からルールやしくみを決めていかなければならなかった。業者様とは土地の仕入れどころか、まともに話もしてもらえない。現実に向き合いたくなくて、やるべきことから逃げて、逃げて、どこに向かって走ればいいのかも見失った。部署異動や会社を辞めることも考えた。それでも、嫌というほど現実逃避した先に「傷だらけでも、挑戦している自分のほうがおもしろい」と気付いた。覚悟を決めた。前向きになったことで表情は明るくなり、業者様に忙しいからと断られたときにも「次いつお会いできますか?」と食らいつけるようになった。すると少しずつ関係性ができ、土地情報ももらえるようになっていった。「自分がやらないで、誰がこのエリアで基盤をつくっていくのか」。その思いで、自分を何度も奮い立たせ、がむしゃらに動き続けた。その結果、新エリアでもいくつかの仕入れができ、複数の現場が動き出した。当初は単身で始めたからこそ、人が増え、事業としての基盤ができつつあることには今でも込み上げるものがある。

仕事人T氏が語る「宅地開発とは」

我々の仕事は、言わば「潜る」こと。表彰されたり、お客様の笑顔を目の当たりにすることを華やかな「地上の仕事」とするなら、我々がやっているのはスポットライトの当たらない「地下の仕事」だ。陽が当たろうが当たるまいが、そんなことはどっちでもいい。自分たちの仕事のおもしろさは自分たちが一番よくわかっている。

誰も見向きもしなかった土地が、自分の執念で魅力的な街に変わった瞬間の興奮。目の前で会社の口座から10億円が消え、責任の重さに足が震えた、銀行の応接室でのあの恐怖。役所の理不尽な指導に立ち向かい、プロジェクトが続けられると決まった帰り道であふれた涙と安堵感。不可能だと思われた現場の工事を、予定通りに終えられた達成感。Googleマップに、自分のプロジェクトが反映されていることに気づいたときの誇らしさ。自分の物件が次々と売れていく、うれしくも寂しい気持ち。プロジェクトが完了して、誰も自分の物件の話をしなくなるあの虚しさ。

もし失敗すれば一瞬で莫大な負債を生み出してしまう。そんなリスクに何年も向き合い続けた者だけが、はじめて「多くの人とお金を動かすことの重さ」に心震わすことができる。

泥臭い?地味?時代遅れ?上等だ!我々はこの仕事に誇りを持っている。開発の仕事は、ただ土地を仕入れるだけではない。数億円という途方もない金と、会社を動かしている。ゼロからイチを生み出すこと、それは会社の未来をつくるということだ。

◆仕事人T氏がつくった街のその後

T氏が率いる宅地開発グループがつくった街。タコ足にしか見えないと言われたヘンテコな土地を、「共用庭」というコンセプトで見事に生まれ変わらせ、販売開始から約1ヶ月でスピード完売に至った「某プロジェクト」。

完売から数年。たまたまこの街の近くを通ったとき、何やらワイワイと楽しそうな声が聞こえてきた。もしかして…と思い、あの思い出の「某プロジェクト」の前まで足を運ぶ。建物の外観はさすがに以前より汚れてはいたが、変わらぬ佇まいで家が並んでいた。そして、ちょうど街の中心にあるあの「共用庭」に目をやると、いくつかの家族が集まってBBQをしていた。当時、まだ子供のいない若い夫婦や、まだ子供が小さいご家族の方が中心にこの街の物件を購入されていったのだが、もう保育園や幼稚園に通っているくらいだろうか。少し大きくなった子供たちが、大人が談笑している周りを走り回っていた。

元は全くの赤の他人だった家族同士。私達がつくった街で、新たなコミュニティが生まれている。ここで生まれた子供たちが、ここで人間関係を築き、また外に出て活躍していく。たかが家。されど家。この人達の人生の舞台の1つを我々がつくったのだと思うと、なんと尊い、価値のある仕事だろうと、子どもたちの笑顔を見ながら目頭が少し熱くなった。

当時のT氏の言葉や、宅地開発グループのことを思い返しながら、その場を後にした。

◆家族思いなT氏の行動派な一面

あれから数年がたち、「素敵なお家をありがとう」とカワイイメッセージをくれた子どもたちも大きく育ち、1人は高校受験を迎えている。去年の末からは塾にも通い始めた。

ただこれも、T氏の活躍が大きい。勉強がなかなかはかどらず、学校の成績もなかなか上がらない。本人もそろそろ塾に行き始めたほうがいいのか…周りの友だちもほぼ9割方塾に通っている…そんな不安も募っていく。友だちにどこの塾がいいか聞いてきたら?と奥様からも促すものの、なかなか前へ進まない。

ここで登場するのがT氏。行動派である。見るに見かねて、近所の塾という塾を片っ端から資料請求をしまくる。そうして家には大量の塾の資料が送られてくる。ポストに入り切らないことも…。そして、数日後、T氏の電話は鳴り止まない。仕事をしていても、塾からの電話がひっきりなしにかかってくる。たまには出るけど、押しの強い営業をあまり好まないT氏は、「資料みてよかったらこっちから電話するから」を冷たくあしらうのみ。

しかし家ではその資料を開けようとは一切しない。仕方なく、奥様がすべてを開封し、目を通す。良さそうなところを子どもと相談する。そうやって、奥様と子供がようやく動きだしたようだ。数日後には、奥様と子どもで塾の説明会に行き、気に入った塾を見つけたそう。そして未だに、T氏の携帯には塾からの勧誘電話がなり続けているらしい。

余談だが、受験生の子供ためにそれまで衣装部屋になっていたT氏の部屋を明け渡したそうである。男らしく、言葉はなくても、その行動が家族思いであることが伝わってくる。素敵な家がこれまでは一緒に住まう家から、個人個人を尊重する家へと変遷していくのであった。

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